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翻訳: ボンジーペン氏の『精神の現象学』 中間タイトル問題の説明 (v. 2.0.) |
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目 次 はじめに 凡 例 「付録 II. 旧・中間タイトル」の訳 |
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はじめに ヘーゲル『精神の現象学』の成立過程を調べようとするとき、その「中間タイトル(Zwischentitel)」問題を避けては通れません。現行の『精神の現象学』の中間タイトル(いわゆる、新・中間タイトル)は: 「I. 精神の現象学(I. Wissenschaft der Phänomenologie des Geistes.)」 です。しかしもともとの(旧)中間タイトルは: 「第 1 部. 意識の経験の学問(Erster Theil. Wissenschaft der Erfahrung des Bewusstseyns.)」 でした(*1)。 では、なぜそう言えるのか、その理由を一度は見ておきたいところです。マイナー社の哲学文庫版『精神の現象学』(2006 年)には、その編集者である W. ボンジーペン氏(Wolfgang Bonsiepen)の理由説明が、「付録 II(Beilagen II.)」として掲載されています。が、なにぶん印刷や製本に関係することなので、訳者には一読後もなお意味のとれぬ個所が多くありました。そこで、腰をすえて訳出しようと思った次第です。 凡 例 ・以下は、Meiner 社の Philosophische Bibliothek 版 Phänomenologie des Geistes に Beilagen II. URSPRÜNGLICHER ZWISCHENTITEL (S. 547f.)として掲載されているものの全訳です。 ・原文では段落分けをしていない箇所でも、訳文は読みやすさを考えて、新段落にしました。原文で段落分けをしている箇所は、訳文では1行空けて新段落としています。 ・ [ ] 内は、訳者の挿入です。 「付録 II. 旧・中間タイトル」(*2)の訳 残っている資料と、その成立事情(Überlieferung und Entstehungsgeschichte): 『精神の現象学』の初版本には、[その中間タイトルを 2 つも持つものがある。つまり、] 「第 1 部. 意識の経験の学問(ERSTER THEIL. WISSENSCHAFT DER ERFAHRUNG DES BEWUSSTSEYNS.)」 という中間タイトルが、 「I. 精神の現象学(I. WISSENSCHAFT DER PHÄNOMENOLOGIE DES GEISTES.)」 という中間タイトルの後にきているものがある。また他方では、これら 2 つの中間タイトルのうちのどちらか 1 つしか、持たないものもある(原注)。 前述の「第 1 部. 意識の経験の学問」という中間タイトルのページの下部には、[印刷されたボーゲンのうちの] 最初のボーゲンであることを示す「A」という印(しるし)が付いている(*3)。したがって、この「第 1 部. 意識の経験の学問」というタイトルは、ボーゲンのうち最初に印刷されるものであるという決まった構成要素として、旧・中間タイトルを表しているのである。 新と旧の 2 つの中間タイトルを [初版の製本時に] 交換しようという [印刷会社の] 意図については、「製本者へ」という、1 枚の印刷されたボーゲン上での指示から、詳しいことが分かる。[中間タイトルと緒論(Einleitung)を含む] 本文部分(Textcorpus)と、序文(Vorrede)の I ~ LXXXVIII ページとが印刷され終わり、その後、序文の最後の諸ページや誤植訂正表の印刷されたこのボーゲンで、印刷 [すべて] が完結することになっていた。 このボーゲンは、次のように区分されている: (1) 序文の LXXXIX ページ (2) 序文の XC ページ (3) 序文の XCI ページ (4) 誤植一覧表の最初のページ (5/6) 訂正された [序文の] VII と VIII ページ (7/8) 訂正された [序文の] XVII と XVIII ページ (9/10) 訂正された 215 と 216 ページ (11) 製本者への指示 (12) 空白ページ (13) 誤植一覧表の第 2 ページ (14) 誤植一覧表の第 3 ページ (15) 新しい中間タイトル「I. 精神の現象学」 (16) 空白ページ [(11) の製本者への] 「指示」は、以下のように書かれている: 製本者へ このボーゲン上の付加された諸ページを――つまり、215 と 216 ページ、さらに序文の VII と VIII ページ、そして XVII と XVIII ページ――、また Schmutztitel (*4) もともに、切り離して、それら [旧] ページに替えて挿入すること。 そこで製本者は、このボーゲン中ごろの (5) から (12) の 8 ページを切り離して――これは、ボーゲンを 2 回折りたたむことによって、ひと切で可能であった(*5)――、旧ページを訂正済みの諸ページ [すなわち (5) ~ (10)] と交換したことであろう。そしてこれらの 8 ページを切り離せば、誤植一覧表のページどうしは近接したのである(*6)。 そして、このボーゲン最後の丁(ちょう。裏表の 2 ページ)の新・中間タイトル [(15)] には、製本のときに、[空白ページ(16)をはさんで、] 印刷済みの [中間タイトルと緒論を含む] 本文部分の最初の丁である旧・中間タイトルが、続いたのである(*7)。この旧・中間タイトルを「削除」することは、製本仕方の指示があいまいだったせいもあって、ともすれば見過ごされたのだろう。また見過ごされることになったのは、通常とはおそらく違った呼び方――当時、中間タイトル(Zwischentitel)を Schmutztitel (ふつうは、本来のタイトル丁の前に置かれた丁で、ただ略記されてはいるもののタイトルがまた印刷されている)と呼ぶことが、たとえ行われていなくはなかったにしても――のせいもあろう。 結局、製本の異なった仕方 [の初版] があるということは、次のことから説明がつくのである: 初版は全部が一挙にではなく、必要に応じて綴じられ(gebunden)、あるいは仮綴じにされ(broschiert)、さらにはまた『精神の現象学』も、製本されないままに出回ったのであった。そして、出版社(*8)に [正規に] 雇われた製本者以外にも、幾人かが製本に携わったことであろう。 旧・中間タイトルは以下のとおり: ERSTER THEIL. WISSENSCHAFT DER ERFAHRUNG DES BEWUSSTSEYNS. ---------------------------------- 第 1 部. 意識の経験の学問 ---------------------------------------------- (原注)こうした事態を、最初に述べて指針を与えたのは、Fr. Nicolin の「『精神の現象学』の表題問題について(Zum Titelproblem der Phänomenologie des Geistes)」である。ヘーゲル・シュトゥディーエン(Hegel-Studien)、1967 年、第4巻所収、113-123 ページ。 ---------------------------------------------- (*1) 新と旧の 2 つの中間タイトルを持っている 1807 年版の『精神の現象学』が、Google によるデジタル化でスキャナーされて、オンライン上にあります。それに拠りました。この本は、URL では表示されないしくみとなっておりますので、"Es ist eine natürliche Vorstellung"(つまり、緒論(Einleitung)の冒頭の語句)で検索してください。最初から 2 番目くらいに出てきます。 なお、W. ボンジーペン氏は、強調するためか、中間タイトルの表記をすべて大文字にしています。しかし、上記のスキャナー画像では、拙稿で表記したようになっています。 (*2) 「旧・中間タイトル」の原語は、URSPRÜNGLICHER ZWISCHENTITEL です。この ursprünglich は率直に訳せば「もともとの。元の」ですが、拙訳では「旧・」と訳出しています。 (*3) つまり、印刷されたボーゲンを、一定の順序で並べないことには、いくら印刷ページの各々にはページ数が印刷されているとはいえ、裁断した後の製本が面倒になります。そこで最初に来るべき印刷ボーゲン(16 ページ分)には、下の方に「A」と印字したのでしょう。この印字に、アラビア数字やローマ数字を使いますと、序文や本文のページ数と紛らわしくなってしまいますので、アルファベットを A から使用したものと思われます。 この A の印は、(*1)で紹介した オンライン上の『精神の現象学』で、見ることができます。 (なお、1807年につけ加わってきた「序文(Vorrede)」が印刷されたボーゲンには、アルファベットではなく「* 」印が、序文 I ページより順番に付されています)。 そして、この「付録 II. 旧・中間タイトル」でのボンジーペン氏の説明や、1807 年版の『精神の現象学』から判断しますと、おそらく「A」の印は、ボーゲンの 1 ページ目、つまり下図の最上段・左端の下に付いていたと思われます。
(*4) 原文の Schmutztitel は、辞書を引くと「(書物などの巻頭の白紙の)遊び紙」(小学館『独和大辞典』第2版)とか、「遊び紙。前とびら(とびらの前にあって、多くは書名のみを印刷する)」(相良守峯『大独和辞典』)とあります。 ・しかし、「製本者への指示」の中においては、中間タイトル(Zwischentitel)の意味で使われており、「旧・中間タイトル」を指します。 ・この後で、ボンジーペン氏が、このSchmutztitel について、「ふつうは、表題紙の前に置かれた用紙で、ただ略記されてはいるものの、表題がまた印刷されている」と述べているときには、前記『大独和辞典』での「前とびら(とびらの前にあって、多くは書名のみを印刷する)」という意味です。 (*5) つまり、いま問題になっているボーゲンは、以下のように区分されているようです。(1) ~(16) の数字は、前記のボンジーペン氏の表記に従っています。
「2 回折りたたむ」というのは、 ・まず、ボーゲンの横中央の線を、つまり (5) ~ (8) と (9) ~ (12) との間の線を、折ります(山折りでも谷折りでも可)。 ・次に、縦中央の線を折りますと(山折りでも谷折りでも可)、結果として (2), (6), (10), (14) と (3), (7), (11), (15) との間の線で折ったことになります。 「ひと切で可能」な切り方は、 ・上記のように 2 回折ったことによって、元のボーゲンは 4 つに重ねられて、1/4 の大きさですが、それを上から見ると、例えば下図のようになっています。 ・この場合は、横中央の線を、つまり (1) ~ (2) と (5) ~ (6) との間の線を、4 枚重ねのままで切ります。
すると、(1), (2), (3), (4) と (5), (6), (7), (8) との間が切れ、また同時に (9), (10), (11), (12) と (13), (14), (15), (16) との間が切れることになります。 (*6) つまり、「(4) 誤植一覧表の最初のページ」と「(13) 誤植一覧表の第 2 ページ」がつながります。 (*7) この「旧・中間タイトル」は、すでにボンジーペン氏の説明にあったように、 「A」の印のあるページです。 なお、ここで説明されている諸ページについては、訳注(*1)に記したオンライン上の 1807 年版によって、実際に見ることができます。 ちなみに、「旧・中間タイトル」だけの 1807 年版は、こちらです。 (*8) 原語は Verlag なので、「出版社」と訳出しましたが、おそらく製本もゲープハルト書店が外注した印刷会社のラインドル社でしたと思われます。そこで、「印刷会社(Druckerei)」が正しいのでしょう。 (初出 2012.4.10.) |
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