HOME サイト地図
ヘーゲルの全集と、書簡集について (v. 4.1.)

   はじめに
 ・ドイツ語のヘーゲル全集の種類(v. 1.3.)

 ・ 邦訳のヘーゲル全集(v. 1.2.)
 ・ドイツ語のヘーゲルの書簡集の種類(v. 1.3.)

 ・邦訳のヘーゲル書簡集 (v. 1.1.)


   じめに

 ドイツ語のヘーゲル全集はこれまでに数種類が出ており、それぞれ特徴がありますので、新しい順に簡単にまとめてみました。論文での引用は、例外を除いて、『決定版ヘーゲル大全集』あるいはこれに基づいた『学生用廉価版』、および『ズーアカンプ版』からしないと、厳しいものがあります。


   ドイツ語のヘーゲル全集の種類

Studienausgaben
  『学生用廉価版』、あるいは『哲学文庫版

 下記の『決定版ヘーゲル全集』を、マイナー社Felix Meiner Verlag)が「哲学文庫Philosophische Bibliothek)の仮綴本として出したものです。この哲学文庫版の各ページには、『決定版ヘーゲル全集』においてのページ数も、記載されています。したがって、引用するときには、後者のページ数ですることができます。
 また、『精神の現象学』なども初版が採用されていますし、編集者の解説や注も豊富なので、ヘーゲルの思想形成をたどろうとするときには、下記のスーアカンプ社のものではなく、こちらが必要となります。(改訂版と異なっている箇所は、脚注に改訂版の文章が再録されています)
 「哲学文庫版」で出版されたヘーゲルの著作は、Meiner 社のサイトのこのページでで知ることができます。むろん、すべてが『決定版ヘーゲル全集』に基づくものではないので、注意が必要です(著作のアイコンなどをクリックすると、説明文が現れますが、そこに "nach dem Text von GW" とあれば、基づいています)。

 語の表記の仕方は、ヘーゲルの原文を残そうとしていますので、現代の表記法とは異なることも多く、慣れるまでは途惑うかもしれません。例えば:
 gefodert (← gefordert)(9 ページ)
 fodernden (← fordernden)(13 ページ)
 kömmt (← kommt)(13 ページ)
 この版を読み進めるには、相良守峯『大独和辞典』が必携になります。

 なお、この哲学文庫版で誤植ないしは誤っていると思われる箇所は:
 ★ Jenaer Systementwürfe II において、
  ・366ページ、24行目の absoluterster は、absolutester の誤植でしょう。

 ★ Jenaer Systementwürfe III において、 
  ・256ページ、12行目の bestimmter は、bestimmten の誤植でしょう。
  ・262ページ、11-12行目の hinauszugeben は、hinauszugehen の誤植でしょう。

 ★ Phänomenologie des Geistes において、 
  ・20ページ、10行目の Wissen は 2 格なので、Wissens の誤植でしょう。(ズーアカンプ社『ヘーゲル著作集』の第 3 巻では、Wissens になっています。)
  ・30ページ、35 行目の Resultat oder の間に、動詞 ist が欠けています。(ズーアカンプ社『ヘーゲル著作集』第 3 巻での該当箇所、すなわち 41 ページ、23 行目には、ist はあります。)
  ・30ページ、38 行目の und welches は、不要です。(ちなみに、ズーアカンプ社『ヘーゲル著作集』第 3 巻での該当箇所、すなわち 41 ページ、26 行目には、und welches はありません。)

 ★ Wissenschaft der Logik, Das Sein (1812) において、 
  ・HogemannJaeschke 両氏の解説文中、20ページの脚注17 の Jenaer Schriften und Entwürfe. GW 5 は、Jenaer Systementwüfre II. GW 7 の間違いでしょう。


Georg Wilhelm Friedrich Hegel, Gesammelte Werke
  『アカデミー版
  ないしは『批判版Die kritische Edition)』、
  または『歴史的批判版Die historisch-kritische Edition)』
  あるいは『決定版ヘーゲル大全集
  (GW と略記されるのは、この全集です)
  
 1968 年から、ドイツ学術会議(Deutsche Forschungsgemeinschaft)の委託によって、ライン-ヴェストファーレン・アカデミー(Rheinisch-Westfälische Akademie der Wissenschaften)が、刊行しています。いわゆる決定版であり、大全集。大きく重く、値段も相応です(が、日本アマゾンで、300 ユーロのものが 2 万円を切って購入できるということもあります)。
 ふつうの意味での読書用ではなく、研究用です。つまり、問題となる箇所での句読点の打ち方や、挿入語句かどうかをを確認したり、余白への書き込み、そして編集者の注記にも目を通すためのものです。
 なお、「歴史的(historisch)」というのは、「当時の表記のままで」という意味です。例えば、herkommt は、herkömmt と書かれています(Bd. 9, S. 57)。その上、現代文であれば当然コンマがあるべきところにないなど、読解に苦労しますが、新解釈の可能性もありえます。(ただ、ときどき勘違いしている人がいますが――自らを省みての自戒でもあるのですが――、こういうところに血がたぎってくるようになると、それはアカデミックな情熱ということではなく、病コウコウに入ったということなんです。えっ、病気自慢がしたい?)
 また、「批判的(kritisch)」は、「新たに文献学的な校訂を加えた」ということでしょう。
 
 これまでに出版されたものについては、Felix Meinerのサイトのこのページで知ることができます。


G. W. F. Hegel, Werke in zwanzig Bänden
  『ズーアカンプ(あるいは、ズールカンプ)版ヘーゲル著作集

(1) ズーアカンプ社Suhrkamp Verlag)より、当時の文献学に基づいて1969-1971年に刊行されました。グロックナー版がもとになっています。

(2) ヘーゲルの著作を購入するのであれば、一応この版をお勧めします。といいますのは:
 a) 全20巻のほかに、別巻として用語の索引(Register) があります。この Register は大変使いやすい、良くできたものです。
 例えば Subjekt を引けば、全20巻を通しての重要な用例が採録されています。そこで、ヘーゲルが絶対者と主体との関係をどのように考えていたのかを調べたければ、“das Absolute ist S. 3 20 ff.“(絶対者は主体である。第3巻20ページ以下) という指示を見て、第3巻の20ページ以下を探せばいいわけです。
 グロックナー版全集付属のヘーゲル・レキシコンには記載されていないと言われる「外化・疎外(Äußerung, Entäußerung, Entfremdung,)」なども、このズーアカンプ版では Register に、用例付きで記されています。
 b) 仮綴(と)じ本で、金額もリーズナブルです。

(3) 第 3 巻『精神の現象学』は、初版ではなく改訂版(「序論(Vorrede)」の途中までが改訂されて、ヘーゲルの死後に出版されたもの)です。むろん、初版と異なる箇所は、脚注に初版の文章も記載されていますし、両版は内容的には同じです。
 なるほどヘーゲルの思想形成をたどるというのであれば、初版が問題となりますので、『決定版ヘーゲル全集』をもとにした上記の「哲学文庫版」の『精神の現象学』が必要です。「哲学文庫版」には、編集者の解説や注も豊富です(これらは研究者のためのものです)。しかし、初学者には、読みやすさからいって、こちらのズーアカンプ社のものをお勧めします。

(4) この版で欠落している以下の著作は、上記の『決定版』大全集ないしはその廉価本(哲学文庫版)で、補うのがいいと思います。★印は、廉価本で出版されているものです。
 a) 少年期(シュトゥットガルト、テュービンゲン時代)の著作すべて。
 b) 青年期(ベルン、フランクフルト時代)のいくつかの著作。
 c) イェナ時代の「惑星軌道論」。
 d.) ★イェナ時代の体系草稿群すべて。
 e)「ハイデルベルク・エンチクロペディー」。
 f) ★『大論理学初版』。
 g) 書簡すべて。("Briefe von und an Hegel" という 4 巻本で、Felix Meiner 社からクロース装で出版されています。ただし、J. Hoffmeister の編集で、『決定版』全集以前のものです)。

(5) 誤植と思われる箇所は:
 <第 3 巻>
・ 24 ページ、下から 3 行目: Sowenig So wenig1807 年のオリジナル版とマイナー社の哲学文庫版では、このようになっています。つまり、この個所は「So + 副詞wenig) + 副文」という構文になっています。)

・ 36 ページ、上から 8 行目: Gebundene gebundene1807 年のオリジナル版とマイナー社の哲学文庫版では、このようになっています。また、gebundene でなければ、文法的に理解できません。)

・ 57 ページ、下から 2 行目: gegenüber stehenzubleibengegenüberstehen zu bleiben1807 年のオリジナル版とマイナー社の哲学文庫版では、このようになっています。gegenüberstehen という動詞は現代の辞典にも記載されており、今も使われている語です。したがって、ズーアカンプ版がこの部分を現代表記にしたというのではなく、同版の誤記だと思われます。
595 ページ、ヘーゲルの 1806/1807 年・冬学期の講義告示引用文中:
  (i) 上から20行目: sives. (ズーアカンプ版では、どこから引用したか記していないのですが、Briefe von und an Hegel. Bd. 4. Teil 1. Hrsg. von J. Hoffmeister. Philosophische Bibliothek 238a. S. 82. では、「s.」となっており、scilicet だと考えられます
  (ii) 本文の上から 21 行目: System der Wissenschaft proxime . . . System der Wissenschaft, proxime (コンマの欠落。なお、System der Wissenschaft の部分は、Felix Meiner 社の Briefe von und an Hegel, Bd. IV, Teil 1, S. 82 ではイタリック体にはなっていず、それが正しいと思われます。)
 <第 6 巻>
・ 563 ページ、上から12行目: nachtmacht

 <別巻『索引(Register)』>
・ 382 ページ、上から 18 行目: 35

(6) また、寄川条路氏によればズーアカンプ版には:
 「編者による恣意的な改作がいくつかある。たとえば、『ドイツ国家体制の批判』の「序文」(1797/1800年)とみなされているテキストには、「・・・kein besseres Leben ・・・」とある [第1巻、458ページ]。しかしヘーゲルの自筆草稿は、まったく逆に、「・・・ein besseres Leben ・・・」となっている。・・・このような偽造は、ズーアカンプ版にはすくなくない。さらにまた、「序文」とみなされているこの断片も、じつのところ『ドイツ国家体制の批判』とは関係がなく、独立して書かれたものであろう」。(『構築と解体』、晃洋書房、2003年、24ページ)
 ただし、「kein besseres Leben」については、誤植の可能性が大きいかもしれません。(この版の第3巻『精神の現象学』でも、最初のものには数行欠けた部分があった(?)ような気がします。)
 ズーアカンプ版ではふつう訂正したときには、注が付けられています。例えば、本文で「. . . zu treten2, . . .」となっているところは、同じページ下欄で「2 Ms: >>trennen<<」と記述されており、草稿は trennen だが treten と修正したことが分かるようになっています。
 

Sämtliche Werke. Neue Kritische Ausgabe
  『ホフマイスター版ヘーゲル全集

 下記のラッソン Georg Lasson 版は1911-1940年に、このホフマイスター Johannes Hoffmeister 版は1952-1960年に、刊行されました。これまでの全集の欠落を補い、補遺や講義についても厳密に校訂する方針だったようです。編者はその死によって、ラッソン、ホフマイスター、フレヒジッヒと交代しました。


Sämtliche Werke
  『ラッソン版ヘーゲル全集


●『ボーラント版ヘーゲル全集

 『ベルリン版ヘーゲル全集』に、注を付記したもののようです。完結はしなかったようです。


Sämtliche Werke
  『グロックナー版ヘーゲル全集

 1927年より刊行され、全集の編者グロックナー Hermann Glockner の「ヘーゲル」伝と、全集の総合索引「ヘーゲル・レキシコン」が付加されているようです。


Georg Wilhelm Friedrich Hegels Werke
  『ベルリン版ヘーゲル全集

 ヘーゲルの死の翌年、1832年から、ヘーゲルの友人や弟子たちによって刊行されました。歴史的意義は大きいものの、いろいろ問題のある全集だと言われています。


   邦訳のヘーゲル全集

 岩波書店から出ています。また主要作品は岩波文庫にもあります。ただ、訳は旧版に拠っていますので、『決定版ヘーゲル大全集』がほぼ出そろった現在では、信頼性に留意する必要があります(特に講義録)。アマゾンでは


   ドイツ語のヘーゲルの書簡集の種類

Briefe von und an Hegel   『ヘーゲル往復書簡集』
   Band I: 1785 - 1812
   Band II: 1813 - 1822
   Band III: 1823 - 1831
 1952 - 1954 年に、ヨハネス・ホフマイスター(Johannes Hoffmeister)が編集し、Felix Meiner 社から出版されました。1969 年には現行版となり、現在もっとも信頼できる版です。
 哲学文庫(Philosophische Bibliothek, Band 235-237)に、上記のように年代ごとに分かれて、全 3 巻あります。ペーパーバックなので廉価です。(なお、これの第 4 巻はヘーゲル関係の資料が集められています。できたら、全 4 巻とも入手したいところです。)

 手紙によっては、文章が省略されていたりしますので、校訂のいきとどいた新書簡集の登場が望まれます。
 なお、シェリング宛の手紙については、文献学的正確さと、注の豊富さによって、アカデミー版のシェリング往復書簡集に収められたものを見るべきでしょう。


   邦訳のヘーゲル書簡集

● 拙訳『ヘーゲルとニートハンマーの、往復書簡の翻訳』

 『精神の現象学』出版をめぐる、ヘーゲルとゲープハルト書店とのトラブルに関する部分の翻訳です。

『ヘーゲル書簡集』(小島貞介訳、日清堂書店、最新版は昭和 50 年)

 児島氏は、「私は、哲学者でも、ヘーゲル専門家でもなく」、「人間ヘーゲル」を「日本の読者に多少なりとも近づ」けたいとの思いで、昭和 14 年にこの訳書を出版されたようです。
 したがって、哲学的議論の部分や細部の訳などには難があり、訳出書簡の選択には物足りなく思われることがあります。また、絶版になっており、古本はいささか値がはります。しかし、訳注などは有益で、類書もないことから、定番訳書となっています。

HOME サイト地図