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      マイモンSalomon Maimon 1753*-1800/11/22) v. 1.1


 (マイモンについての詳しい説明が、Stanford Encyclopedia of Philosophy にあります。時間のある方は、そちらをお勧めします。)

  リトアニア(
Rithuania)の Nieswiez(現在はベラルーシ(Belarus)の Nyasvizh)に生まれた。ユダヤ人で、ドイツの哲学者。
 カントの批判的理解者であり、カントをして、他の批判者の誰よりも『純粋理性への批判』をよく理解していると言わしめた**。フィヒテ、シェリングなどの賞賛もえた。.M. メンデルスゾーンは、彼の友人で、後援者でもあった。
 
Nieder-Siegersdorf(現在のポーランドの Kozuchów 近く)で亡くなった。

* 生年を、1754頃と記す事典もある(例.
Encyclopaedia Britannica
**
M. Herz 宛ての、1789年5月26日付けの手紙。


 The Cambridge Dictionary of Philosophy(ケンブリッジ哲学辞典)によれば、マイモンは:
・カントの「物自体」というのは、たんに極限概念(
limiting concept)であって、現象の背後にある実在物ではない、と考えた。この点で、ラインホルトとは異なる。

・カントの体系は、合理主義(独断論)をしりぞける点では十分であっても、懐疑主義へは適切に対応しなかったし、またできなかったと論じた。そこで彼は、カントの懐疑的解釈ともいうべきものを提唱した。

・カントが感性と悟性を峻別したことに反対し、それにかえて、無限の精神(
infinite mind)を提起した。

・こうして、フィヒテとヘーゲルへの道を開いたが、多くの点でむしろ新カント派のコーエン(Hermann Cohen, 1842-1918)に類似する。


 『哲学事典』(平凡社、1979年)によれば、マイモンは:
・カントに反対して、感性と悟性とを統一する共通の根を、意識に求め、能動的な力は意識自体にあり、客観は認識能力そのものの中で、その働きの対象となるものだと考えた。

・したがって、客観は意識の機能から独立ではなく、意識機能と客観は相互に規定しあうとした。

・意識外の物自体による感性の触発という考えを、とらなかった。

・物自体の概念は矛盾した概念で、認識できないのみならず、思惟することすら不可能だと主張した。

・意識は自らの内から生み出したものについてのみ、完全な意識をもつが、どうして生じたか不明なもの、すなわち所与については、不完全な意識しかもちえないと考えた。かかる所与をマイモンは、ライプニッツの「微小知覚」にならって、「意識の微分」と名づけたが、カントにおける感性と悟性の対立も、結局、不完全な意識と完全な意識の対立にほかならず、両者(感性と悟性)はその極限のばあいと考えた。

・カントにおける「質料」と「形相」の区別も相対的なものであって、両者はカントの意味におけるイデーであり極限概念であるとした。

・カントのいう経験を否定し、普遍的・必然的な認識は数学においてのみ可能であって、経験とはたんなる知覚にすぎぬとして、ヒュームの懐疑論の立場にたった。

・倫理学についてもカントに反対し、道徳行為の動機は、快感から引き出される固有の価値感情であるとした。

・以上のように、カントの物自体の批判を通じて、意識の能動的一元論の立場を志向した。


 Encyclopaedia Britannica(ブリタニカ国際大百科事典)によれば:
・マイモンの懐疑論は、カント哲学批判のスタンダードとなった。


◆ 拙サイトのマイモン関係のリンク集


◆ 著作には:
・Versuch über die Transcendentalphilosophie, mit einem Anhang über die symbolische Erkenntnis und Anmerkungen (1790)
  『超越論的哲学についての試論』 (注1)
 (Felix Meiner 社より2004年に新版が出版されました。ドイツ Amazon で、19,80 ユーロ。また、

http://tiss.zdv.uni-tuebingen.de/webroot/fp/fpsfr01_W0304/seminarmaterial.html#VTP
に全文が公開されており、3回に分けてダウンロードできます。ただし旧版です)。
・Philosophisches Wörterbuch, oder Beleuchtung der wichtigsten Gegenstände der Philosophie, in alphabetischer Ordnung (1791)
  『哲学辞典 すなわちアルファベット順による、哲学の重要な対象の解明』
・Salomon Maimons Lebensgeschichte (1792)
  『ザーロモン・マイモン自伝』
 (ドイツ Amazon で入手できます)。
・Über die Progressen der Philosophie (1793)
  『哲学の進歩』
・Salomon Maimon's Streifereien im Gebiete der Philosophie (1793)
  
『ザーロモン・マイモンの哲学の彷徨』
・Die Kathegorien des Aristoteles (1794)
  『アリストテレスのカテゴリー 』
・Versuch einer neuen Logik, oder Theorie des Denkens (1794)
  『新しい論理学の試論 すなわち思考の理論』
 (http://tiss.zdv.uni-tuebingen.de/webroot/fp/fpsfr01_W0304/seminarmaterial.html#VTP
に全文が公開されており、Manfred Frank 氏による内容目次と同じく、ダウンロードできます)。
・Kritische Untersuchungen über den menschlichen Geist (1797)
  『人間精神についての批判的探求』
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(注1) 題名の前置詞 über を「越える」の意味にとり、『超越論哲学超克試論』と訳すこともあるようですが、この über は、「ついて」の意味です。というのは、本書 8, 9 ページ(1790年オリジナル版)において、以下のように言われているからです:
「超越論哲学の完全な理念は([この哲学の] 全学問自体ではないにせよ)、偉大なカントが彼の不滅の著書『純粋理性への批判』において与えている。私がこの試論で意図するところは、この学問のもっとも重要な諸真理を述べることである。云々」(戻る)


◆ 全集としては、Valerio Verra によって出版された (1965-76年)、写真コピーによる復刻の Gesammelte Werke 全6巻があります。
 しかし、Manfred Frank 氏によれば、その印刷は、鮮明とはいえない小さいドイツ文字によっており、読みにくいもののようです。
http://tiss.zdv.uni-tuebingen.de/webroot/fp/fpsfr01_W0304/seminarmaterial.html#VTP

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