HOME 全サイト案内
フィヒテの全集と、書簡集について (v. 3.5.)

   はじめに (v. 1.0.)
 ・ドイツ語のフィヒテ全集の種類
(v. 1.1.)
 ・邦訳のフィヒテ全集 (v. 1.0.)
 ・ドイツ語のフィヒテ書簡集の種類 (v. 1.1)
 ・邦訳のフィヒテ書簡集 (v. 1.1.)


   じめに

 フィヒテの全集ならびに書簡集をを、新しいものから順にまとめてみました。


   ドイツ語のフィヒテ全集の種類

「学生用廉価版」全6巻

 下記の『アカデミー版』にあった編集者の文献学的な注は、省かれていますが、フィヒテの原文で省略のある不完全な文は、編集者によって補われており、読み安くなっているとのことです。
下記のサイトの、Studientextausgabe の項で紹介されています)。

    -----------------------------------------------
● 『アカデミー版』あるいは『GA
  J. G. Fichte-Gesamtausgabe der Bayerischen Akademie der Wissenschaften

 1964 (62?) 年から、バイエルン・アカデミーによって、刊行されています。編者は、R. ラウト、H. ヤーコプ。要するに決定版です。
 ・現在の出版状況を知らせるサイト
 ・既刊の紹介サイト (このサイトの右上で、fichte を入力して検索して下さい。)

 この全集は、I ~ IV の 4 シリーズ(Reihe I ~ IV)に分かれています:
  Reihe I : Werke
  Reihe II : Nachgelassene Schriften
  Reihe III : Briefe
  Reihe IV : Kollegnachschriften


 なお、第 III シリーズ「書簡集(Briefe)」については、下記の「書簡集の種類と、邦訳」を参照して下さい。

    -----------------------------------------------
通称『SW 版』(直訳は:フィヒテ著作集)
  Fichtes Werke


 Walter de Gruyter & Co. 社より 1971年に出版されたもので、下記の『SW 版』と『遺稿集』を、そっくり写真製本して再現したものです。したがって、ページ番号も同じです。『SW 版』第 1 ~ 8 巻は、そのまま第 1 ~ 8 巻を構成し、『遺稿集』第 1 ~ 3 巻は、第 9 ~ 11 巻を構成しています。

 この現行本全 11 巻の著作集は、仮綴で比較的廉価であることや、上述の『アカデミー版』が入手しづらいことから、簡易な全集としてよく使われています。フィヒテの著作からの引用時には、この全集の巻数とページ数が『SW 版』として、よく記されます。
 なお、左(右)ページの右(左)上辺には、各著作の初版本のページ数が小さい文字で印刷されています。

 ただし、
・活字には摩滅した部分もあります。が、読みづらいほどではありません。ただ活字の大きさは、仮綴の本としては特に小さいとはいえませんが、目に優しくもありません。雑誌 "Foreign Affairs" ほどでなくていいですが、もうひとまわり大きい文字が欲しいところです。

・索引や編集者の注は、ありません。

・第 1 巻の表紙や目次に、"Recension des Aenesidemus, 1792"(「アイネシデモス」の書評、1792 年)とあるのは、1794 の誤りです。1792年は、『アイネシデモス』が出版された年です。

・第5巻の 460 ページに、"...sich zerspalten, ..." とあるのは、"sich zerspalte," の誤りだろうと思います。(Felix Meiner 社のメディクス版による『幸いなる生への導き』(Philosophische Bibliothek, Bd.234, 1970年印刷)では、そうなっています。アカデミー版は入手していないので、わかりません)。

・1798年冬学期の講義である『新しい方法による知識学 Wissenschaftslehre nova methodo』(通称『ノヴァ・メトド』)は、収録されていません。

・ 「1801/02年の知識学」(Darstellung der Wissenschaftslehre. Aus den Jahren 1801/02)については、Meiner 社の上記の学生用廉価版、すなわち哲学文庫版(Philosophische Bibliothek; Bd. 302) が、いいと言われています。
 この哲学文庫版は、上記の『アカデミー版』にもとづいており、アカデミー版の編集者ラウト氏(Reinhard Lauth)氏の有益な序文(Einleitung)が付いています。氏によれば、SW 版の「1801年の知識学」(SW 版では、「1801/02年の(Aus den Jahren 1801/02)」ではなく、「1801年の(Aus dem Jahre 1801)」となっています)は――したがって Walter de Gruyter & Co. 社より 1971年に出版されたものも――、編集者による改変が大変多いとのことです(氏の前記序文 IX, X ページ)。

    -----------------------------------------------
● 『メディクス版
  Joh. Gottl. Fichte, Werke

 メディクス Fritz Medicus の編集による選集で、全6巻。1908/12 年出版。

 ただし、手元にある Felix Meiner 社から出版された、メディクス版の『幸いなる生への導き』(Philosophische Bibliothek, Bd.234, 1970年印刷)では:
・79ページに、". . . und nur unmittelbar gesetzt, . . ." とありますが、これは誤りで、SW版(468ページ)のように、"und nur mittelbar gesetzt," としないと、文意が通りません。
・ 79ページに、". . . so ist er doch noch überdies . . ." とありますが、これは誤りで、SW版(468ページ)のように、"so ist er doch nicht noch überdies" としないと、文意が通りません。

    -----------------------------------------------
● 『SW版』あるいは『小フィヒテ版
  Johann Gottlieb Fichtes sämmtliche Werke

 フィヒテの子息 I. H. フィヒテが編集し、1845/46年に出版した、J. G. フィヒテの8巻の全集です。 上記の現行本の著作集 Fichtes Werke で、第 1 ~ 8 巻として再現されています。

     -----------------------------------------------
● 『遺稿集
  Johann Gottlieb Fichtes nachgelassene Werke

 フィヒテの息子イマヌエル・ヘルマン・フィヒテ Immanuel Hermann Fichte が編集し、1834/35年に出版した、J. G. フィヒテの3巻の遺稿集です。この3巻の活字は、ドイツ文字です(たしかに、しばらくすれば慣れるのですが・・)。
 上記の現行本の著作集 Fichtes Werke で、第 9 ~ 11巻として再現されています。


   邦訳のフィヒテ全集

● 『フィヒテ全集

 晢書房より刊行され、23 巻と補巻の 1 巻からなります。20015 年 10 月現在、第 14 巻を残してあとはすべて既刊です。

1. 初期宗教論・啓示批判
2. 初期政治論
3. 初期哲学論集
4. 初期知識学
5. 言語論・解釈学・文学作品・道徳論講義
6. 自然法論
7. イェーナ時代後期の知識学
8. 論理学・形而上学講義
9. 道徳論の体系
10. 哲学評論・哲学的書簡
11. 無神論論争・人間の使命
12. 一八〇一‐〇二年の知識学 (注1)
13. 一八〇四年の『知識学』
14. 一八〇五‐〇七年の知識学
15. 現代の根本特徴・幸いなる生への導き
16. 封鎖商業国家・国家論講義
17. ドイツ国民に告ぐ・政治論集
18. 超越論的論理学・自然哲学
19. ベルリン大学哲学講義 I
20. ベルリン大学哲学講義 II
21. 社会哲学講義
22. 教育論・大学論・学者論
23. ベルリン大学哲学講義 III
補巻. フィヒテの生涯

------------------------------------
(注1) 第12巻所収の『知識学の六年この方(Ankudigung [ママ、Ankündigung の誤植か] : Seit sechs Jahren)』については、「解説」の 537 ページで:

 「この短文は・・・小フィヒテ [フィヒテの子息 I. H. フィヒテ] による『フィヒテ全集』及び『フィヒテ遺稿集』にはじめて登載された」

と、書かれています。
 しかし、小フィヒテ(I. H. Fichte)による『フィヒテ全集』及び『フィヒテ遺稿集』には、登載されていないようです(いゃ~、何度も探して疲れました・・)。登載されていないことは、この第12巻の「凡例」に、「訳文上欄の数字はSW版 [すなわち小フィヒテによる『フィヒテ全集』及び『フィヒテ遺稿集』] の頁付」と記載されていながら、『知識学の六年この方』の訳文上欄には、数字が無いことからも、窺えます。


  ドイツ語のフィヒテ書簡集の種類

『アカデミー版全集』の第 III (「3」とも表記)シリーズ(Reihe III
  J. G. Fichte-Gesamtausgabe/3. Reihe
 
 第 III シリーズは、第 1 巻(Band 1)から第 8 巻まであり、年代順になっています。
  Band 1: 1775 - 1793
  Band 2: 1793 - 1795
  Band 3: 1796 - 1799
  Band 4: 1799 - 1800
  Band 5: 1801 - 1805
  Band 6: 1806 - 1810
  Band 7: 1810 - 1812
  Band 8: 1812 - 1814; Anhang 1815 - 1818; Nachträge 1788 - 1810


 なお、誤植と思われる箇所は:
・ 第 5 巻、112 ページ、12 行目: 「2.のピリオド(.)は、コンマ(,)が正しいと思われます。(1856 年版の Fichtes und Schellings philosophischer Briefwechsel では、コンマになっています。)

 誤りと思われる編集者注は:
・ 第 5 巻、111 ページ、注 36:「私 [フィヒテ] の手紙」を 1801 年 5 月31日/8月7日の手紙だとしていますが、1801 年 10 月 15 日付の手紙でしょう。→ その理由はこちらです

    -----------------------------------------------
● 『フィヒテ-シェリング往復書簡』
  Fichte-Schelling Briefwechsel
 
 ワルター・シュルツ(Walter Schulz) の序文や解説を付けて、1968年に Suhrkamp Verlag より出版。
 下記の H. シュルツ による『J. G. フィヒテの往復書簡全集 校訂版』に基づきます。

    -----------------------------------------------
● 『J. G. フィヒテの往復書簡全集 校訂版』
  J. G. Fichte, Briefwechsel, Kritische Gesamtausgabe

 ハンス・シュルツ(Hans Schulz)が、1925 年に出版。
 なお、言うまでもなくこの H. シュルツは、上記の 1968 年に『往復書簡』を出版した W. シュルツとは、別人です。

    -----------------------------------------------
● 『フィヒテとシェリングの往復書簡』
  Fichtes und Schellings Briefwechsel
 
 両哲学者のそれぞれの子息が、共同で 1856 年に出版したもの。しかし、これも文献学的には信頼できないと言われます。
 管見の範囲においても(また『アカデミー版全集 III, 4/5』と比較すると)、以下の点に不備があるようです:

・ S. 69, Z. 3 の注番号の 1 は、付けられた位置が間違っており、『アカデミー版フィヒテ全集 III, 4』の編集者注 6 (406 ページ)によれば、S. 68, Z. 23 の setze の直後に付けられねばならなかったようです。
 そして、もとの注番号の 1 が付けられていた箇所(S. 69, Z. 3)には、別の注が来るべきであり、その内容は前記のアカデミー版全集の編集者注 7 (406 ページ)によれば、おなじくシェリングの欄外への書き込みで、以下のとおりです:
 「このことは、ほどなく明らかとなろう!」

・ S. 75, Z. 1 の ihren は、Ihren の誤記です。『アカデミー版フィヒテ全集 III, 5』では、Ihren となっています(S. 39, Z. 17)。

・ S. 84, Z. 23 の sichals との間に、『アカデミー版全集』では、d. h. eben die Form des sich erfassens (すなわち、まさに自己把握の形式を)が挿入されています(フィヒテの手紙の欄外に、これらの語句があったとされています)。

 ・ S. 86, Z. 7 の次の1文:
 Lassen wir jetzt das Bewusstsein A liegen und gehen zu C.
 「今は意識Aは打っちゃっておき、Cを取り上げたいと思います。」
は、座小田豊/後藤嘉也訳の訳注(二八)にあるように、「文脈から判断し、全集版 [=『アカデミー版全集 III, 5』] にならって」、S. 87, Z. 10 に移動するのがいいようです。

 ・ S. 86, Z. 11 の Vereinigungs の V は、印刷がつぶれているため B のように見えます。(そのため訳者は、Bereinigungs と読んだしまったのでした。廉価だというので、この1856 年の復刻版を買ったのは、痛恨の極みです・・・)

 ・ S. 87, Z. 12 の so の 後のコンマは、『アカデミー版全集』にはありません。

 ・ S. 90, Z. 5 mußte は、『アカデミー版全集』では müßte となっており、それが正しいと思います。

 ・ S. 97, Z. 13 および S. 99, Z. 18 の sie は、Sie (貴方)の誤記/誤植だと思われます。(→『アカデミー版全集 III, 5』で、両方とも誤植と判明。)

 ・ S. 103, Z. 6 の behauptete は、『アカデミー版全集』では behaupte となっています。

 ・ S. 109, Z.10 の desselben は、『アカデミー版全集』ではありません。

 ・ S. 109 最終行の wie は、『アカデミー版全集』では Wo となっています。

 ・ S. 112, Z. 16 の Sie は、『アカデミー版全集』では小文字の sie となっています。

 ・ S. 113, Z. 2 の Sie は、『アカデミー版全集』では小文字の sie となっています。

 ・ S. 123, Z. 15 の ableiten. の後には、法政大学出版局『フィヒテ-シェリング往復書簡』では、次の 1 文が続いています:
 「これと同じ合成の徴表を、貴方は相関的な知の中にも見出すのです。」(183ページ6行目)
 しかし、この 1 文に相応する文は、1856 年の両子息版にはありません。『アカデミー版全集』では、Des gleichen finden Sie im relativen Wissen auch. -- の文があります(112 ページ、10 行目)。)

 ・ S. 124, Z. 2 の indem は、『アカデミー版フィヒテ全集 III, 5』では、in dem となっています(S. 112, Z. 19)。実際的に意味は変わりませんが、拙訳は『アカデミー版全集』にしたがいました。

 ・ S. 124, Z. 9 の für ihn eigentlich は、『アカデミー版フィヒテ全集 III, 5』では、たんに hier となっています(S. 112, Z. 23)。実際的に意味は変わりませんが、拙訳は『アカデミー版全集』にしたがいました。

 ・ ドイツ文字の小文字 x が、r と大変似かよった書体になっています。ふつうドイツ文字で x は、r の下側に大きく湾曲した部分をもつのですが、1856 年版の x は、r の下部左側に小さい髭のようなものが付いているだけです。
 例 (1): exegesiren (S. 78, Z. 18-19.)
    → この単語をうっかり eregesiren と読んでしまったために、それからの艱難辛苦は言語を絶するものがありました・・・嗚咽
 例 (2): Existierende (S. 79, Z. 1.)

 なお、一般的に 1856 年版と『アカデミー版全集』とでは、
・語の表記法(例えば、「A」「B」が「A.」「B.」になっていたり、「gleich」が「 = 」だったり)、
・強調語句や、大文字と小文字の使用箇所、
・段落の分け方
などに違いが見られます。

    -----------------------------------------------
● 『J. G. フィヒテの人生と、文筆関係の往復書簡』
  Johann Gottlieb Fichtes Leben und literarischer Briefwechsel

 フィヒテの子息 I. H. フィヒテが、1830年(改訂版1862年)に全2巻で出版したもの。しかし、文献学的には信頼できないと言われます。


   邦訳のフィヒテ書簡集

『フィヒテとシェリングの、哲学的往復書簡集』(拙訳)

 2人の往復書簡のうちの、哲学的議論の部分だけを、訳出しています。1856 年版の Fichtes und Schellings Briefwechsel を底本としましたが、『アカデミー版フィヒテ全集 III,4-5』でチェックしました。

    -----------------------------------------------
『フィヒテ-シェリング往復書簡』(座小田・後藤訳、法政大学出版局、1990年)

 上記の、ワルター・シュルツ(Walter Schulz)が 1968 年に出版した Fichte-Schelling Briefwechsel の邦訳です。
 (なお、この邦訳の不適切と思われる箇所については、こちらに記しています。)
 
    -----------------------------------------------
● 上記の邦訳の『フィヒテ全集』(晢書房)では、巻によっては関連する書簡が収録されています。
 なお、第 10 巻が、「哲学評論・哲学的書簡集」に当てられています。(2013 年 7 月現在、まだ未刊です。)

HOME 全サイト案内