哲学と批評

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スマトラ沖地震の死傷者は、なかば救えた!?


 12月26日のスマトラ沖地震による死者は、29日現在で分かる範囲でも5万人 [2005年3月時点では、死者・行方不明者30万人] に達しました。被害に会われた方全員が、津波が実際に来るまで知らなかったという状況です。もし、10分前にでも知らされて、避難をはじめていれば、多くの人が助かったはずです。しかし、まずインド洋沿岸国には津波の警報体制がありませんでした。むろんその整備はこれから急がれます。けれども現在の体制でも、住民や観光客の多くに津波の到来を知らせることは、可能だったと思われます。
 以下に記すようなことは、メディアの論調としてはまだ現れていないようですが、今後のためにも考えておきたいところです。


 今回の大地震発生を、その規模や位置とともに、ほぼリアルタイムで知りえた機関・組織は案外多かったのではないでしょうか。先進国とその海外機関には、優秀な地震計をもった研究所や軍事施設があります(他国の核実験の察知にも使われています)。さらに震源近くでは、地震発生による異変(音、水流の変化など)は、軍事的な耳や目によって、直接に観測されたと思われます。なにしろマラッカ海峡の近くですから、アメリカ軍をはじめとして、おそらく複数国の軍隊が知ったのではないでしょうか。

 地震の発生を知った人たちは、民間・政府・軍隊のどの組織の一員であろうとみなプロですから、地震の規模がとてつもなく大きいということと、だいたいの位置が分かれば、その結果起きる津波の範囲もほぼ予想できたはずです。地震発生から、この予想にまで、かりに30分かかったとしましょう。問題は、この津波情報がこのあとどうなったかです。
 ありうべき理想をおおまかにいえば、ことの重大さに気づいた現場の人たちが上司に報告し、その国の大統領・首相にまで情報が達するのに15分、国家の首脳たちが事態を了解し、体制作りをするのに15分、被災国になる国のトップに伝えたり、インターネットに情報を立ち上げたり、テレビ放送をするのに30分。被災国の政府が海岸にまで軍隊を繰り出して避難命令を出したり、テレビ放送などをするのにさらに30分――このようなイメージでしょうか。
 時間の合計はこの例では2時間となりますが、むろん、人々の勇気や知恵によって、短縮可能な面もありえたでしょう。アメリカ大統領が、地震発生から1時間後にテレビ放送していたならば、あるいは軍事衛星などから撮った津波の進度状況写真をインターネット上に刻一刻と公開していれば、事態は大きく変わっていたかもしれません。しかし、2時間以内は問わないとしても、それ以降も被害者は津波について知るすべもなかったのですから、これは大きな問題です。

 津波情報はどこで止まってしまったのか、ジャーナリズムにぜひ追求してもらいたいものです。また、意地悪いことを言うようですが、インド洋に面した地域には多くの軍事施設があると思います。その中で、津波到達以前に警戒態勢をとったところはないのでしょうか。
 本来であれば、各国の政府や研究機関が率先してこのような情報を公開し、倫理的責任の有無を明らかにするのが望ましいところです。
(ウヮーッ、こんなことを書いても、明日突然事故死ということにはならないでしょうね?)
(2004. 12. 29) 


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