HOME


クラシックを聴くための、
   ヘッドフォンシステム
   V. 1.9


目 次

はじめに 

1. 使用した機材一覧

2. 参考図書   


 Part I

3. ヘッドフォン

4. SACD/CDプレーヤー 

5. ヘッドフォンアンプ

6. 壁コンセント部分

7. 電源ボックス

8. RCA(ライン)ケーブルと電源ケーブル

9. 静電気・磁気の除去

10. ケーブルインシュレーター

11. チューニングチップ

12. 接点クリーナー

13. ノイズフィルター

14. 制振用材の使用

15. かくして・・・

 Part II

15. 電源トランスの導入


はじめに 


 無謀だったのでしょうか――
 ピュアな電源の得られないフツー・並の家屋で、クラシック全般をまんべんなく、楽しく聴こうというのは。つまり、
・ソロから大編成の楽団まで、またモノラルや初期ステレオ録音から現在のCDやSACD までが、十分に聴けて、
・頭で音を補正してやらなくとも、演奏(録音)本来の音がそのまま出てくるような、
・その結果、自然と音楽が耳に入ってくるような、
オーディオシステムを、作ろうというのは。

 実際のところ、一応の装置をそろえはしました。が、如何せんバッハの代表作『マタイ受難曲』の定番CD(リヒター指揮。1959年の旧盤の方です)の冒頭、第1部「1. 合唱」が、ひどい音になってしまうのでした:
 a) 各パートの音が重なってしまい、ドロドロです。
 b) 全体の音場や各音像がはっきりせず、もやがかかっています。そのくせ、きしむような耳障りな響きになります。

 これは何とかせねば、と思いました。かくして、バッハ入魂の「合唱」を鳴らすための、果てしない旅が始まったのでした。読者のご参考になればと思い、その顛末を記すしだいです。

 今回、スピーカーではなくヘッドフォンのシステムにしましたのは、ヘッドフォンが必要になったという事情もありますが、スピーカーですと、
・スピーカーの部屋内での位置決めからはじまり、振動対策や部屋の音響調整まで、大変なエネルギーと金額が必要となります。現在の私の手には、余ってしまいます。
・たとえ私の部屋でいいシステムが組めたとしても、皆様の部屋でもそれでいい音が出るとは限りません。再現性に乏しくて、ここでご報告する意味がありません。
(たんに一般的な意味で、いい機材の組み合わせの紹介ということであれば、雑誌には専門家によるものが載っていますので、それらを読まれるのがいいと思います)。

 なお、引用文中の [ ] 内は、私の挿入句です。


1. 使用した機材一覧


 使用することとなった機材を、記しておきます。現金で総額 60 万円くらいです。

● オーディオ機器
   ヘッドフォン:K701(AKG(アカゲ)、税込実売価格:\ 40,800 程度)
   CDプレーヤー:SA-13S1(マランツ、税込実売価格:\ 195,000 程度)
   ヘッドフォンアンプ:m902(グレースデザイン、税込実売価格:\ 200,000 程度)
● 壁のコンセント部分
   コンセント:R-1(オヤイデ、税込定価 11,550 円)
   コンセントベース:CB-1DB(アコースティックリヴァイブ(注1)、税込定価 20,790円)
   コンセントプレート:102-D(フルテック、税込定価 2,730 円)
   これらの取り付け費用:2,000 円程度
   (なお取り付けには、電気工事士の資格が必要なので、電気屋さんに頼みます。)
● 電源ボックス部分
   電源ボックス:PB-200(クリプトン、実売価格:\ 30,000 程度)
   壁コンセント−電源ボックス間の電源ケーブル:PA-23ZX(3m、オヤイデ)
● 電源ケーブル
   電源ボックス−CDプレーヤー間:CDプレーヤーの付属品
   電源ボックス−ヘッドフォンアンプ間:HC-T150C(ORB)
● RCA(ライン)ケーブル
   CDプレーヤー−ヘッドフォンアンプ間:ACROSS 750RR(オヤイデ)
● 静電気・磁気の除去
   CD ディスクの静電気の除去:SK-EX(定価:\ 33,600、SFC 社)
   ケーブルやトレイにたまる静電気の除電ブラシ:SK-II(定価:7350円、SFC 社)
   磁気の除去:RD-3(税込価格:\ 41790、アコースティックリヴァイブ)
● インシュレーター
   ケーブルインシュレーター:RCI-3(実売価格 \ 7900/個、アコースティックリヴァイブ)
   制振用シート: SH-22(税込定価 \ 7900/2枚、fo.Q(注2)
● チューニング関係
   チューニングチップ:QR-8(8個入り、税込実売価格: 6,500円 )
● 接点クリーナー
   電子機器クリーナー:パンドー29D(株式会社スリーボンド)
● ノイズフィルター
   FCS-8(アコースティックリヴァイブ社、税込定価 5040/8個 円)
   FOL 電源エンハンサII(HWT 社、税込実売価格 30,000 円)

*実売価格は、オンライン通販のほぼ最安値を指しています。実際は、運送料+手数料が 1,000 円くらい上乗せされます。

 約 60 万円もかけて、ここまでそろえなくてはいけないのかと、思われる方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、地方に住む庶民にもはじめて芸術を堪能できる条件が、ヘッドフォン使用による音楽の享受という形で、できたとみるべきでしょう。
 例えば絵の鑑賞をしようと思えば、現物を見るしかなく、しかも代表作や重要な作品を見てまわる必要があります。そこで空の旅を、通路側のエコノミー席で(トイレに行ったり、歩いて運動したりしやすいのですね。決して窓側の席を予約しないよう)水分補給しながら、10時間耐えて・・・とならざるをえません。
 なるほど文学ならば、本を買うだけでいいとはいえます。けれども、日本文学だけで満足できるはずはなく、良質の翻訳が少ないこともあって、外国語を勉強せざるをえません。しかし、小説などを楽しみながら原文で読むレベルには、仕事をかかえて家庭を持つ普通の人は、達せないのではないでしょうか(外国語を使う仕事についていれば、話は別ですが)。

 もっとも、コストパフォーマンスを考えなくてもいいのであれば、CDプレーヤー部分に数百万を投じて、高額のヘッドフォンならびにヘッドフォンアンプ(もしくはプリアンプ)をそろえれば、あとは何もしなくてもいいかもしれません。ところが予算をできるだけ抑えようとすれば、CDディスクからヘッドフォンまでの各部を、細かく考慮していかなければならないのです。

-------------------------
注1) よく英語で Acoustick Revive と、表記されます。これはブランド名みたいです。会社名は、関口機械販売株式会社。ややこしいなあ・・
注2) フォックとも表記されます。


2. 参考図書


 近年のオーディオ・アクセサリーは、各分野でいちじるしい発展をしており、新製品ラッシュが起きています『音づくりの新常識』(福田雅光著、音楽之友社、2008年、\1200)は、時宜をえた案内書です。説明も、詳しく丁寧です。

 ヘッドフォンについては知識のある人でも、ヘッドフォンアンプは不案内な人が多いと思われます『ヘッドフォンブック2008』(株式会社音楽出版社、2008年)138ページからの佐藤良平氏の解説が、役立ちます。


3. ヘッドフォン


 クラシック用の定番には、ゼンハイザー社のフラグシップである HD 650や、AKG(アカゲ)社の K701 などがあります。私はAKG の繊細にして引き立つ高音が好きなので、K701 にしました。ただし、K701 の付属コードは、ヘッドフォン本体に固定接続なので、交換はできません。
 インターネットで探すと、両機とも実売価格は 4〜5 万円なので、ここは最上位機にしたいところです。


 Part I

4. SACD/CDプレーヤー

 普通の CD と、SACD(スーパーオーディオ CD)との音質の差は、両者のハイブリッド版を聞き比べると、歴然とします。SACDの方が、より自然で身近な音のように感じます。(当然ながらオーディオ環境が整備されていくほど、これはハッキリします)。CD でヘタなピアノ演奏だなと思うときには、実際に演奏されている音楽をあるべき音楽と比べていますが、SACDだと、演奏音によって彷彿とする指の動かせ方そのものが、ダメだなと感じたりします。私としては、SACD もかけられるプレーヤーを、お勧めします。

 今回マランツの SA-13S1 を選んだのは、いいヘッドフォン(HP)アンプが付いており、直接ヘッドフォンを使用できることも一因です。むろん後述するように、単体のHPアンプを購入する予定ではいました。しかし、オーディオ機器の使用はとかく単調になりがちです。それを避けるために、またソースや聴き方によっては(例えば BGM として)内臓のHPアンプの方が、より適切かもしれないと考え、選びました。
 なお SA-13S1 のアナログ出力端子を利用するときや、ヘッドフォン端子を用いてヘッドフォンを聞くときには(つまり、SA-13S1 をアンプなどとデジタルで結合しないときは)、リモコン上の「デジタル出力 オフボタン」を、押しておく(有効にする)のがいいです。
 また、アナログ出力端子の利用時には、「ヘッドフォンレベル」は最小にしておくのは、お作法ですね。

 ところで、もう一ランク上(40〜50万円クラス)のプレーヤーにすべきか、逆に10万円台の、例えばマランツ SA-15S2 にして、コストパフォーマンスを得るべきかは微妙な問題です。それらを試聴していないので、私には何ともいえません。


5. ヘッドフォンアンプ

 SA-13S1 内蔵の HP アンプは、単体の 中級品(7 万円くらい?)に相当するようです。そこで、HP アンプを買うとすれば、10万円超のものでないと意味がありません。となれば、ハイエンドの定番 m902(グレースデザイン社)が、気になるところです。実売価格で 20 万円と高価なのですが、D/A コンバーターを内蔵しているため、デジタル入力が可能です。ライン出力もできるために、アクティブスピーカー(アンプを内蔵)に直接接続できるなど、いろいろ楽しめそうです。
 m902 をインターネットで調べると、音には固有の色付けがあまりなく、どのようなヘッドフォンでも最適に鳴らすとの評判です(スタックス社のコンデンサー型を除く)。佐藤良平氏によれば、「音はまさしく驚異的で、[普通の] ヘッドフォンアンプとはケタ違いの音。・・・普通ヘッドフォンで音楽を聴くと、楽器や声を目の前にベタベタト貼り付けられるように感じやすいが、本機は楽器とリスナーとの間にある空気や距離感まで正確に再現する」(『ヘッドフォンブック2008』144ページ)。これはもう買うしかないでしょう。
 実際に m902 を聴いてみると、SA-13S1 内蔵の HP アンプとは、音の格が違います。例えば、内蔵の HP アンプでは、大編成の合唱曲やオーケストラの各パートは、対抗し競っているように聞こえます。しかし m902 を通すと、各パートは全体を構成する部分であるということが、よく分かります。つまり、全体的な音場が感知できて、各音像が明確なのです。音楽の組み立てが、おのずと明らかになります。(チャイコフスキー『大序曲1812年』の終結部って、こうなっていたのかと、納得しました。むろん、スコアが読める人は自分で再構成できるからいいのでしょうが)。また音質も、m902 の後で内蔵のものを聞くと、少し水っぽく感じます。 


6. 壁コンセント部分

 「壁コンセント [とコンセントベース、そしてコンセントプレート] を交換、電源ケーブルと電源ボックスで給電系を改善。これで [音質の] クオリティは大きくレベルアップされる」(福田雅光著『音づくりの新常識』144ページ)とありますが、そのとおりでした。例えば、ラスキーヌ演奏のゴセック『協奏交響曲ニ長調』では 、2 台のハープの音像が明確となってきます。いわゆる分解能が、いちじるしく向上しました。

 まず、壁のコンセント部分は、
・電源ケーブルのプラグを差し込むコンセント
・(ふつうコンセントは、壁に直に取り付けられていますが、壁の強度や材質は、オーディオ的観点からすると、不十分です。そこで、)コンセントと壁との間に挿入するコンセントベース
・コンセントがむき出しになるのを防ぐため、コンセントの上からかぶせるコンセントプレート
の 3 つの器具からできています。
 コンセントは、オヤイデ R-1 にしました。現在最良といわれるベリリウム銅を採用していることと、1 口ではなく 2 口用のためです。
 コンセントベースは、評判のい CB-1DB (アコースティックリヴァイブ社)ですが、税込定価が 2 万円なのには、涙が出ました。電気は通らないところなんですが・・・(道を極めるって、極道だって言われますけどね)
 コンセントプレートもアコースティックリヴァイブ社の CFRP-1F にしたかったのですが、定価が 2 万円なので、やむなく断念。「現在これがコストパフォーマンスの最も高い製品」だといわれる(『音づくりの新常識』、48 ページ)フルテック社 102-D(2,730 円)となりました。

 なおこれらの取り付けには、電気工事士の資格が必要らしいです(『音づくりの新常識』、21, 50 ページ)。近所の電気屋さんに頼むのがいいでしょう。私の場合は、取付費用は 2,000 円でした。


7.電源ボックス

 CDプレーヤーや HP アンプの電源ケーブルは、壁のコンセントに直接差し込まず、電源ボックスを介すするのが良いようです(『音づくりの新常識』29ページ、「壁コンセントに直接接続する誤算」)。電源経路に混入するノイズを取るために、電源ボックス PB-200(クリプトン)を使用することにします。これにはノイズフィルターが内蔵されています。
 PB-200 に付属の電源ケーブルは、悪いものではないようですが、何かの雑誌で福田雅光氏が、1〜2万円クラスのものに換えるとさらに良くなるといっていたので、PA-23ZX(3m、オヤイデ)に交換しました。3m と長くしたのには、深いわけが――
 一番いいのは、家の電源の大元である分電盤(ブレーカー)や、屋内配線の電線をオーディオ用に交換することですが、家のリフォームになってしまいます。(ましてや、庭に専用の電信柱を立てることなどは、私にはとてもとてもです)。ところが、壁のコンセントに音質のいいオーディオ用電源ケーブルをつなげば、電源経路の一部だけが変わるだけですが、それによって音質変換効果がはたらくというのです(『音づくりの新常識』29, 33 ページ)。こういった性質は、電流が水流とは違うところでしょう。このつなぎの電源ケーブルとして、福田氏は2m を想定していますが、手っ取り早くプラグとコネクターのついた PA-23ZX の 3m ものにしました。
 前記の 2 台のハープの音像はさらに明確になり、換えたかいがありました。


8. RCA(ライン)ケーブルと電源ケーブル

 CD プレーヤーと HP アンプを接続する RCA(ライン)ケーブルは、付属のものがチャチなので、低額(といっても、税込定価 \ 13,125/0.7 m)の対策ケーブルに交換。効果は大有りなのですが、この ACROSS 750 RR(オヤイデ)は、材質が PCOCC-A なので硬く、70cm では曲げづらく、1m にしておけばよかったと、後悔。

ここまでで、拙 HP システムの音質は相当良くなったのですが、出てくる音色がクールで、ピアノの高音部などはキンキンしています。そこで、HP アンプ m902 の電源ケーブルを、「芸術系」と称される(『音づくりの新常識』25ページ)ORB 社の HC-T150C に交換。音色は穏やかとなり、音質も向上。満足しました。
 CD プレーヤーの電源ケーブルについては、「国内メーカーの・・・マランツ・・・などの状況をみると、付属 [ケーブル] で音質設計がされているため、一定の良好な状態が得られていることが多い」(『音づくりの新常識』35ページ)とあるため、付属電源ケーブルをそのまま使用しています。


9. 静電気・磁気の除去

 以前から、CD ディスクの静電気除去として SFC 社の SK-EX、磁気の除去としてはアコースティックリヴァイブ社の RD-3 を使用していました。これらを使わないと、例えばクリュイタンス指揮のフォーレ『レクイエム』(SHM-CD 盤ではなく、普通の盤)のロス・アンヘレスの声は、タバコのヤニを塗ったような感じになります。もともとご本人にだみ声的な面が少しあるのかもしれませんが、それにしてもそのままでは聞けたものではありません。
 手元にあった静電気除去ブラシの SK-II(定価:7350円、SFC 社)も、使用してみました。ケーブルや CD プレーヤーの CD ディスクをのせるトレイ部、電気接点部分などをゆっくり掃くと、効果ありです。
 これらの除去器を使っても、以前はロス・アンヘレスのヤニっぽさは少し残りましたが、今回のシステムでは、気になりません。


10. ケーブルインシュレーター

 ここまでの装備で、『マタイ受難曲』冒頭を聴けるものにするという目標が、達成できればよかったのですが、残念ながらそれほど甘くはありませんでした。「はじめに」で述べた症状 a, b が、大きく改善されたものの依然としてあります。
 そこで、以前使って好結果だったアコースティックリヴァイブ社のケーブルインシュレーター RCI-3 を設置。1 個置いてまだだめなら 2 個でと、CD プレーヤーとHP アンプの電源ケーブルを 2 本をまとめ、それらの下2箇所に置きました。効果は大きく、ほぼ冒頭の合唱が聴けるまでになりました。


11. チューニングチップ

 この後、少しでもさらなる改善をと、手持ちの制振用チューニングチップ QR-8(アコースティックリヴァイブ社)を、電源ケーブルのプラグの上と、壁コンセントプレート(コンセントの上のおおいです)の中央付近、そして電源ボックスの上(挿しているプラグの近く)に張って、振動を制御しました。確かに効果あります。
 なお、QR-8 の別の箇所での活用法は―→


12..接点クリーナー

 以上で一応の満足をえたので、仕上げとして、電気接点をクリーナーで清掃します。しかし、普通の接点クリーナーはアルコールで洗浄しますので、いわばアルコールの音がするようになります。それをきらって、木綿で拭くだけの人もいます。何かいいものはないかと探していると、スリーボンド社のパンドー29D がありました。「速乾性で不揮発成分を全く含まない」ようです(『音づくりの新常識』123ページ)。この製品をインターネットで調べると、評判もいいようです。実際に使ってみたら、確かにフレッシュな音になりました。


13. ノイズフィルター

 こうしていろいろと対策をほどこした後、『マタイ受難曲』のみならず手持ちの CD を、いい気持ちで次から次へと聴いていたのではありますが――
 エアコンや蛍光灯をつけたりすると、また、隣室でテレビのスイッチを入れたりすると、音像がはっきりせず、音の立体感なども失われます。いわゆる S/N が悪くなるというやつです。急きょ自室のエアコンは石油ストーブに換え、蛍光灯は電球にしました。問題は、家屋内のさまざまな電気器具が出すノイズが、電源経路に混入することです。(電信柱を経由してくる隣家からのノイズは、距離が遠いため微弱になり、一説にはそれほど気にしなくていいと、言われています)。
 アコースティックリヴァイブ社のノイズフィルタ FCS-8(5040円/8個)を用いることにしました。これは、オーディオ機器の電源ケーブルにではなく、ノイズを出す電気器具の電源ケーブルに付けるものです。したがって、音質への副作用はないというのが、うれしいところです。が、効果はあるものの、電気器具を使わないにこしたことはない、と言う程度の効き目です。

A) そこで、メーカー推奨の用い方には反しますが、 FCS-8 の一つを、ヘッドフォンシステムの電源ケーブルに直接取り付けてみました。取り付け箇所は、ヘッドフォンから遠いところが良いのではないかと思い、壁コンセントと電源ボックス間の電源ケーブルにしました。大型のものより、中型の方がいい結果でした(ただ、電源ケーブルが太すぎて、この中型のノイズフィルターを締めても開いたままなので、セロテープでとめています)。
 この効果は大きく、CD が SACD のような聞こえ方になりました。音が丸まるとかいった副作用は、今のところあまり出ていないようです。(やはりオーディオにおいても、全体の調和が大切で、時には毒も薬となる・・・)

B) ピュアな電源供給の大切さを、再確認した次第ですが、ほかに何かいいものはと探していると――「FOL 電源エンハンサII」(以下 FOL/II と略記、HWT 社)の評判がいいようです。(電源回路に対し)並列型のノイズフィルターです。同じジャンルには、ノイズハーベスター(米PSオーディオ社)がありますが、インターネットで調べると、使用時に相当大きな騒音を出すようなので、見送りました。
 私の場合には、FOL/II を壁の空きコンセントより、電源ボックス PB-200 のコンセントに差し込んだ場合の方が、効果大でした。PB-200 も並列型ノイズフィルターを装備しているので、干渉しあう事を恐れたのでしたが、杞憂でした。接続後 40 時間を過ぎた頃に、「バーンイン」(慣らし運転という意味?)が完了し、100%能力を発揮するそうです(取扱説明書による)。
 さてその効果ですが、これは素晴らしかったです。SN や分解能が向上し、音が立体的に浮かび上がります。ヘッドフォンアンプ m902 の項で、「楽器とリスナーとの間にある空気や距離感まで正確に再現する」と引用しましたが、このことが明確に実感できたのは、FOL/II を接続してからです。音や演奏の品位までが向上するのには驚きました。
(FOL/II には極性があるので、プラグをコンセントに逆にも差し込んで、音質のいい方にして下さい)。
 ただこの製品、外見はチープですし、「使用時は本体部分を安定する場所に設置してください」と書かれていても、本体に接続している電源コードが短く、容易ではありません。またどの面を下にすればよいのか分からず、おそらくどうでもいいのであろうと、私は立たせた状態で置いています。
 電気製品であれば、普通は1年間の保障期間があるものですが、それもなく、耐久性なども見当がつきません。実験的な製品という趣です。まあ、大手証券会社の印刷された株式レポートより、知る人ぞ知る的アナリストの手書きメモを尊重する人もいますから、FOL/II によってオーディオの最前線に立っている満足感を覚える人がいても、不思議ではないのでしょうが。

 なお、前記 A のように、FCS-8 を電源ケーブルに取り付けたままでは、(取扱説明書を引用すれば)「音がやわらかくなりすぎる」ので、FCS-8 ははずしました。「高周波ノイズ [を除去しようとして] ・・・意識せず音楽信号を欠損する方向のセッティングや機材を使用している場合」に、なっていたようです。


14. 制振用 QR-8の活用

 制振用のチューニングチップ QR-8(アコースティックリヴァイブ社)を、同社の使用例(写真)にならって、以下の場所に貼りました。

1) CD トレーの表面
 私の CD プレーヤーは一般的なタイプなのですが――プレーヤー本体からトレーを引き出して、その上に CD を載せ、そのトレーを本体に戻して演奏するというタイプ――、トレーを本体に戻したときに、使用者に面しているトレーの細長い表面の中心付近に、貼りました。(同社使用例の10を参照)。 音楽の骨格が力強くなり、また分解能も向上しました。
 中級以上のオーディオ機器は、外側のコンストラクションも含めて音決めをしていると思われます。したがって、制振材などを貼ると、響きが消され、音から潤いがなくなるのではと、予想していました。しかし今回はいい結果となりました。

 ところが! 下記の 4 まで対策をしますと、音が押し詰まってきたように感じられます。そこでやはりCD トレーの表面からは、QR-8 をのける事にしました。すると伸びやかな音が戻ってきました。

2) 分電盤内にあるブレーカー(ヘッドフォンシステムを置いてある部屋用)のレバーの上(同社使用例の9
 正直言って、効果があるとは思っていませんでした。ブレーカーは 、CD プレーヤーなどとは離れた別の部屋にあり、その間には新しく取り替えた電源ボックスや電源コードなども介在しているのですから。
 が、あら不思議! 音に透明感が備わり、そして柔軟性がついた感じになりました。最初は、水っぽくふくれた音になっただけかと疑いましたが、音の輪郭はぼやけず、音色も損なわれてはいません。しかも今まで悩まされてきた、ピアノの高音部を強打したときの耳を刺す金属的な響きや、ソプラノのこれも高音部が金属片を含んだような刺激感が、消えています。
 
3) 同じ分電盤内にあるメインブレーカーのレバー(ペラペラでガタガタのプラスチック製です)の上(――そういえば、八幡様のお札の方は、まだ神棚に入れてなかった・・)
 これも好結果! 音全体に力感が加わりました。ハープの協奏曲を聞くと、ハープの音が克明に聞こえ、ソロ演奏のように豊かな表情を持つようになりました。

4) 同メインブレーカーの下側
 ウソのような話ですが、音場全体の立体感といいますか、骨格のようなものが増しました。

 前記 2 と 3 から、ブレーカーの音質への影響は大きいことが、よく分かりました。現在使っているのは、各部屋用が東芝安全ブレーカー(SB-31)、メインブレーカーが富士電機製で、いずれも30数年前のものです。福田氏の推薦にしたがって(『音づくりの新常識』28ページ)、SB-31 だけでもテンパール B-1EA20A に、換えるほかないのかと、思いはするのですが・・・
 分電盤内にギッシリと並んだブレ-カーの中から、ヘッドフォンシステムを置いてある部屋用のものを1つだけ取り出してとしても、その後へテンパールを入れられるとはかぎりません。おそらくサイズや仕様が、一致しないでしょう。となると、分電盤ごと交換し、メインブレーカーも換えることになりますが、10万円は来てしまうでしょう・・・
 悩み多い結末と、なってしまいました。


15. かくして・・・

 思えば前記リヒター指揮の「合唱」は、再生装置をためす相当の難物でした。他に心地よく聴ける CD もあるのだが・・・という期間が相当続きました。しかし、前記 13 で一応の満足に至りましたので、ひとまず擱筆しようと思います。

 この間の装置改良の過程では、演奏や曲が分からなかったのは、あるいは低評価してしまったのは、、オーディオシステムが悪かったためだ(自分の耳が悪かったせいではなく)、ということが数多くありました。せめて今のヘッドフォンシステムのレベルから、オーディオによる音楽鑑賞をスタートさせたかった、というのが偽らざる感想です。


 Part II

15. 電源トランスの導入

 予算を抑えつつ、コストパフォーマンスを大きくするという方針であれば、以上で満足すべきだったのでしょう・・・
 しかしあるとき、隣室にあるクーラー・加湿器・介護エアベッドの電源・蛍光灯などを切って、ヘッドフォンを聴く機会があったのです。はい、まるで別物の装置を聴いているようでした。これは、抜本的な対策をせねばと、痛感――
 丸の内に変電所を建て、東京の真ん中の原生林のような所に、リスニングルームを造るのが、音質面からはベストなのですが・・・そこまで思いつめては、危ないことになります。
 庭に専用の電信柱を立てる・・・田舎町でそんなことをすれば、見物人が押し寄せて、死んだ後も馬鹿の代名詞として、名を残すことになるでしょう。
 分電盤を取り替えて、オーディオ専用の配線を、壁の中は無理なので外にはわす・・・ちょっと費用の面できびしいものがあります。

 となれば、電源用のアイソレーション・トランスしかなく、評判のいい中村製作所のものが、候補となります。「戦略的低価格」(93,000円)らしいのと、小型軽量(15kg)から、AVT-64SP に決定。結果は「良かった、良かった〜」


(初出:2008. 12. 26)

ご意見、ご感想をお寄せください。
E-mail: takin*be.to(* を @ に変更して、メールして下さい)