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<美空ひばり>について


はじめに

私は「討論塾」(竹内芳郎氏主催)に加入していますが、遠隔地のためもあって、討論会に参加したことはありません。あるときの討論会で、美空ひばりが話題となっていましたが、その記録を読んで、私には異論があったので、竹内氏にその由を手紙で送りました。以下はそのときのものです。


さて、先日届いた塾報151号中、ご出席の方々の美空ひばり評には、慨嘆しました。ひばりの「うまさ」は認めても、いわゆる芸術性は否認するがごとくです。私は、とくにひばりのファンというわけではなく、また「日本文化を論じるのであれば、美空ひばり理解は必須である」などと大上段に主張しようというのでもありません。ただ、昔レコードで聴いたあの歌声はよかったとの思いがあり、ここで異論の声をあげなければ、泉下のひばりさんにすまない気がします。

  彼女の代表作となれば、「悲しい酒」(昭和41年、ステレオ)を挙げる人が多いでしょうが、少しリアリズムが勝っているようで、私なら「娘船頭さん」(昭和30年、モノラル)をとります。少女が女性になろうとするころの若いひばりの、抑制をきかせながらの絶唱ともいうべきものです。広辞苑でみると――彼女は載っているのです――1937年生まれですから、そのとき178才で、表現力とテクニック双方の完成度の高さはまさに驚異です。
 ほぼ同時期、シュワルツコップが「糸を紡ぐグレートヒェン」を録音しています。久しぶりに前曲と聴き比べたのですが、シューベルト作曲・ゲーテ作詞・E. フィッシャーの伴奏に、力の限りをつくした後者よりも、日本を代表するとはいえ、いささか劣ってしまう作詞・作曲・伴奏で歌った演歌歌手に、私は軍ぱいを挙げます(注)

ひばり論をするのであれば、バイオリニストのチョン・キョン・ファあたりと比べるのも面白いでしょう。二人とも、思わず「やるねぇ、お姐さん」と言いたくなるものを持っており、辛口・淡麗な色香がかおります(なんだか酒の品評のようですが)。
 
しかし、私は美空ひばりを聴きこんだわけではなく、これ以上述べることは控えるべきですが、必聴すべきは前記二曲と、今は手元にないので記憶をたどるだけですが、「波止場だよお父っつあん」だと思います。また、これらモノラルの曲は、原則的に一本のスピーカーで聴くべきことは、言うまでもありません。

2000. 07. 14


) 誤解無きよう付け加えれば、シュワルツコップが歌手として劣るというのではありません。ただ、彼女とシューベルトは、相性がよくなかったということです。彼女の「グレートヒェン」は、窮地に陥っても何とかタフに切りぬけて、、子息を成功する商人かなんかに育て上げてくれるのでは、という期待をもたせてくれるようなところがあります。
 シューベルトのとくにこの歌は、女性歌手にとってはまさに試金石でしょう。精神というより魂の状態が、そして世界と自らの関係が表れてしまいます。

 伴奏のE.フィッシャーのピアノは、諦念のうちにもあくまで美しく、極限状況をよく慰めるものとなっています。それにしても、この曲を作曲したときシューベルトは17才、天才としかいいようがありません。(戻る)

2005. 06. 04


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